きっかけは導入失敗!? 手書き日誌を写真に変えてから始まった保育の変化~未来会議セッションより~

社会福祉法人真生福祉会 あけぼの認定こども園
導入前の課題
  • 書類を作るための時間がかかっていて、もっと子どものことに時間を使って欲しかった
  • 導入失敗で生まれた先生たちのICTに対する苦手意識があった
導入後の成果
  • 簡単な作業からはじめてみることで苦手意識が減った
  • 書類を作るための時間ではなく、子どもについての振り返りの時間に自主的に変わっていった
  • 先生たちの日誌の内容が詳しくなり、前向きな気持ちも育っていった

「昔ながらの手書きの日誌」を「写真と気づきのコメント」に変えた社会福祉法人真生福祉会あけぼの認定こども園さま。
ICT化をしたことによって生まれた園内のゆとりや、保育者たちの目線の変化、そして今後に向けた取り組みなどについて、園長の藤原和則先生におうかがいしました。

※本インタビューは2022年12月の「保育をどうしよう未来会議」のセッションのレポートです。

あけぼの認定こども園 藤原和則 園長


社会福祉法人真生福祉会
あけぼの認定こども園 園長
藤原 和則 先生

2012年より現職。中核となるあけぼの認定こども園の園長の他、市からの委託事業であるアフタースクールの施設長も務め、就学前から就学後まで、地域の子どもたちの成長を見守る。

本来の保育者の業務に専念してもらいたい、という想いでICTを導入

あけぼの認定こども園_外観
あけぼの認定こども園_園庭

まずはあけぼの認定こども園について教えていただけますか?

あけぼの認定こども園は兵庫県三木市にあり、周りには田んぼや山が広がる自然豊かな環境の中にあります。当園では「はじける笑顔・つながる心」を合言葉に、お子様、保護者、保育者が共に成長できる保育を目指しています。

昭和55年、当時は保育園がなかったこの地域に父親が園長として「あけぼの保育園」を設立。平成28年より「認定こども園」として今は私が園長となり運営しております。

色々な視点を持ってどんどん新しいことに取り組んでいきたいと思っており、保育のICT化にもこれから積極的に取り組んでいこうと思っていた時にちょうど「ルクミー」と出会い、導入することを決めました。

どのような経緯で保育にICTを取り入れようと思ったのでしょうか。

園の業務では書類作成がどんどん増えていますし、そのほとんどが手書きでの作業です。先生たちは毎日本当に大変な思いをしていますよね。それは他の保育園でも同じではないでしょうか?

導入前の保育日誌
保育日誌を書いている様子

こちらの写真は当園の保育日誌です。私が園長になる前は1ページに2日分の量を手書きで書いていましたが、少しでも先生たちの業務負担を減らそうと1ページ4日分の量に減らしました。
それでもその日に起こったことや感じたこと、気づいたことを思い出しながら文章を書くのはやはり難しいですし、時間も掛かります。先生たちには「書くことが少なかったら少なく書いていいよ」と話をするのですが、監査のために残しておく必要がある書類だからと、先生たちは空欄を作らないように、文章を一生懸命考えてくれていました。

保育者の仕事は書類を作ることではないですし、やっぱり子どもたちの日々の様子から個々の伸ばせるところを見つけて、興味が持てる機会を提供する、そうした意識を持てる時間をもっともっと増やしていきたいと思いましたし、先生たちもそれを望んでいると思いました。

失敗から学んだICT導入のコツ

ルクミーははじめてのICT導入だったのでしょうか?

いえ、実は7・8年前にルクミーとは別のICTサービスを導入していました。
帳票も登降園も保育日誌も、と現場の先生の理解を得ないまますべてのICT化を強引に進めてしまったばかりに、ICTというツール自体に苦手意識が生まれてしまったのです。
今まで空いた時間に好きな場所で手書きで行っていた作業が、部屋をいちいち移動しなければならず、慣れないパソコンを使う作業に変わったことで、先生たちもすごく難しかったんだろうと思います。
すごく反省をしましたし、本当に失敗したなと思いました。

そうした経験もあって、ICT化を進めていくならまずは簡単にできるところから始めようという思いを持ちました。

スマホが当たり前になった今では、職員たちも各種SNSサービスなどは日常的に使っています。「写真を撮る」「コメントを書いて送る」という作業だけなら、先生たちもICT化を受け入れやすいだろうと思い、まずはルクミーフォトを導入して保育日誌のICT化をスタートしました。

実際にどのように使われているのか教えてもらえますか?

撮影の様子
タブレットでの入力

先生たちにICT化はすごく大変なものというイメージを持たれてしまっていたので「とりあえず簡単なものから始めましょう」ということで、新年度が始まる一ヶ月くらい前から写真をたくさん撮ってもらい、日記のような簡単なひと言を入れる練習から始めました。

ただ、ひと言といっても「今日はこんなことをしました」というだけではなくて、その中で「子どもにこんな気づきがあったよ」とか、「こんなおもしろい発見があったよ」ということを積極的に載せていくという決まりを作りました。

写真とコメントを残すという作業は、皆さんも日常的に行うことが多くなっていますし、年齢もあまり関係なく取り組みやすい方法ではないかと思っています。

日誌を写真で記録するようになり、何か変化はありましたか?

ヒトコマ一覧
現在のヒトコマ一覧

一日何十枚という量の写真を撮るのですが、その中で今日もっとも残しておきたい気づきをしっかり残せるようになったと思います。紙に書くためには自分の記憶の中にずっと残しておかないといけませんが、写真に変わったことで、簡単に振り返りながら残せるようになりましたし、先生たちも「あ、今いい瞬間!」という場面をたくさん撮っておこうという雰囲気ができてきました。

上にある画像はルクミーフォトのヒトコマ画面です。左の画像は導入を始めた最初の頃で、各クラス一枚ずつしか写真は撮れていませんでした。日誌なので、スタート時点はそれで良いと思っていたのですが、半年ほど経った頃は右の画像のように、ひとつのクラスで写真が二枚、三枚と投稿されるように変わりました。

実は先生たちに一日一枚までしか投稿してはいけないという先入観があったようで、「園長先生、写真は一枚だけでないとだめですか?」という質問があったんです。
「そうじゃなくて、一日の中に気づきが十個あったら十個書いていいよ」と話すと、先生たちは自分たちでもっと良くしていこうと、どんどんどんどん写真を増やしていくようになりました。

ヒトコマ_過去
ヒトコマ_現在

写真につけるコメントもすごく変わったと思います。
左の画像は最初の頃に書かれたコメントで事実だけを語るものでした。
右の画像は半年以上経過した後のものですが、コメントは「散歩中にバッタを発見し、子ども達は大喜びしていた。保育教諭の足にバッタがいて、それを見た子ども達は『バッタだ』と喜びながら夢中に……」と、子どもたちの様子や心境を書けるようになり、子どもがこんなことに気づいている、こんなときにこんな動きをした、ということをどんどん詳しく書けるようになってきました。

恐らくですが、以前はモヤっとした景色全体を見ていたところから、今は写真を撮りながら、子どもたちの発見を探そうという視点に変わってきたことで、こうした文章が書けるようになり、写真でもだんだん子どもたちの楽しそうな様子や、変化するところを撮れるようになってきたのではないかと思います。

文章だけでポンと渡されてもなかなか分かりにくいですが、写真がついていればパッと見て何の様子なのかと興味を持てますし、他の先生たちが見てもすごく分かりやすい表現になったと感じています。

素敵な変化ですね。今後やっていきたいことなどはありますか?

写真のヒトコマを通して子どもの成長、発見や気づきが見えるようになってくると、それを自分や園の中だけに留めるのではなく、園に預けている間、子どもがどんなことをしているのか、心配している保護者の方にも伝えてあげたいという声が先生たちから出てくるようになりました。
「こんなことでも使えませんか?」「こんなことも発信したいんですけどいいですか?」と、先生たちからも相談が来るようになったので、来年度に向けて「写真を使った発信」や「保護者への活動の共有」の方法をみんなで考えていきたいと思っています。

最初は先生たちの負担軽減を目的にICT化をスタートしましたが、気がつくとそういうことだけじゃなく、実際に使っていくことで、先生たちが逆に興味を持ったり、他に何かできないかと考えるように変わりました。

保育計画も「子どもたちはこうしないとだめだ」とか「次はいつも通りにこれをしないといけない」ではなくて、「今日は子ども達が興味を持っているこっちをやろう」「じゃあ明日はこれを伸ばしていこう」という考え方に変わってきたので、そこでもうまくICTを使いながら進めていきたいです。

負担軽減というのは結果的についてくるものだと思いますし、先生たちが楽しみながら計画を立てられたり、記録をとれるようになることで、今まで義務感や負担感があったことが、自分たちでやろうという考えに変わって、主体性を持って取り組めることがもっと増えていくと思います。

それによって時間と心にゆとりができれば、子どもたちを見ること、機会を提供することに時間を増やせていけるといいんじゃないかと感じています。

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