未来会議レポート
【保護者支援】保護者を園の味方にする ~保護者コミュニケーションの基本と実践~
2022年01月14日
未来会議(冬)では「~「明日の保育」を語り合う~」と題し、「ゆとり作り」、「保護者の巻き込み」、「日々の振り返り」、「学びの継続」という4つのトピックをご用意し、さまざまな著名な先生方にお話しをいただきました。
その中でも反響の大きかった、保護者対応の実践と心理学的背景についてお話いただいた「保護者を園の味方にする~保護者コミュニケーションの基本と実践~」のセッションを本日はご紹介いたします。
保育施設における保護者支援はどんなものがあるのか?その基盤となるコミュニケーションの取り方について、ぜひご参考いただければと思います。
話を伺った人
社会福祉法人ルピナス キッズ・キッズ折尾保育園 園長
山本ユキコ 先生
人間環境学博士
著書『子どもが伸びる がんばらない子育て』
「気になる子ども」とその保護者支援の核となるのはコミュニケーション
子育てに関する講座を行っていた際、保育者からも色々相談を受けることが多かったのですが、頻繁に挙がる質問が「気になる子ども」とその保護者に対する対応でした。
私としても何か保護者支援できることはないか、と考え、今の園では、北九州から助成を受ける形で丁度臨床心理士の先生と一緒にその「気になる子ども」に関する研究に取り組むことにしました。
その時にわかったことが、「気になる子ども」とその保護者の支援の核になるのは、正に「保護者との密接なコミュニケーション」だということです。
実際の園でも気になる子どもは何人かいて、保育者はその対応に日々試行錯誤していました。
その試行錯誤する日々の中で、言葉とドキュメンテーションによって毎日伝える積み重ねがコミュニケーションのベースにあるな、ということが実感できてくるように。
日々伝えることによって、まず信頼関係が作られ、信頼関係から色々なことが繋がっていくのです。
これは「気になる子ども」だけではなく、全ての子どもの保護者にも通じることです。
信頼関係を築くことが、保護者コミュニケーションのベースになってくるのだと感じてます。
保護者コミュニケーションの基本はポジティブなやりとりに力を注ぐこと
因みに人間関係を円滑に進めるためには、ポジティブな会話や語りかけと、ネガティブな会話(例えば注意したりなどもネガティブに含まれます)って、どのぐらいの比率が良いがご存じでしょうか?
実は、5:1ぐらいの比率が良いと心理学では言われています。良い関係が続けられなくなるのが1:1や3:1ぐらいなのだそうです。
そのため、ポジティブなコミュニケーションに力を注ぐ、というのは保護者コミュニケーションでも同様に基本になってきます。
具体的に、2つの実践例をご紹介します。
1.日々の情報提供
「ポジティブなコミュニケーション」ってどういうこと?ということなのですが、保護者をほめても良いのですが、最も良いのは「子どもの成長を保護者と喜び合うこと」です。
当園でのクラス配信・連絡帳・個別連絡の例です。
左:クラス配信では、日々の保育の子どもたちの表情をお伝えしています。子どもたちの集中した表情、笑顔の表情などがあります。
中:連絡帳で、特定の子の素敵な瞬間があった時にその保護者にお伝えするようにしています。
右:個別連絡は緊急性の高い連絡があった際に使うのですが、朝すごく泣いていた時に保護者への配慮のために、連絡帳とは別に個別連絡を使ってお伝えしていました。(このあたりの使い分けは園によって自由に設定してよいかと思います)
こういった連絡をしておくと、お迎えの際などにポジティブなコミュニケーションが生まれやすくなります。
こちらは園だよりです。
その月にやっていたことについて、保育者がどういう想いで、何をねらいとしていたのかなどを伝えるようにしています。遊んでいるだけじゃなくて「保育」をしているのだということを伝えています。
このように、日々の保育の様子の発信と月1のおたよりによる保育の視点・指針の発信を行っていますが、この積み重ねにより、私(園長)が保育を語るのではなく、保育者一人ひとりが自分で保育について語れる、話せるようになってきました。
2.保護者アンケート
このような日々の情報発信を行っていくことで、保護者からの信頼感が育まれてくるようになります。
やがて、その保護者からの信頼感は感謝の言葉となり、出来ればその感謝の言葉を形にしたいなと思うようになり、次に着手したのが「保護者アンケート」です。
保護者アンケートは以前から当園でも取り組んでいてはいましたが、実は最初にそのアンケート見た時、「〇〇を改善してほしい」という声に対しての返信がメインで、「良い意見に対する返信がないこと」が少なかったことに非常に驚きました。
みなさんも良くやっている対応だったりしないでしょうか?
「要望が多くて困っている!」という時、この対応は心理学の基本から考えるとベストの対応ではないのです。
コミュニケーションの基本として、応答したものは強化され、無視したものは反応が減る・なくなるという構図があるからです。
つまり、改善要望を中心に対応し良い声には反応しない、を繰り返していくと 要望が強化されていくだけになってしまいます。
そのため私が実施した保護者アンケートへの反応としては、クレームに関しては複数の意見をまとめてスマートにお答えするようにし、感謝の声に関しては一つずつ全て取り上げて、頂いた意見よりも多い分量で感謝を前面に出ししっかり回答をするようにしました。
さらにこの回答を保護者のみなさんに配ったことで、いつも要望を上げるのが上手な保護者の方が「他の人はこういう風に思っていたんですね」とご自身で気づくことがあったようで、その方からの要望のご意見の内容も少しずつ変わってくるようになりました。
私はそこからさらに、アンケートのフォーマット自体を、保護者からの「意見」ではなく、「体験」や「感謝の言葉」を集めやすい形式に変えたいなと思うように。
考えたのは、とても大きな自由記述欄だけがあるアンケートフォーマットです。
保育の業界って素晴らしい保育をしているのにもかかわらず、それを発信するのが苦手な方って多いですよね。
私はもっと発信すべきと思っていたので、集めた声は園のホームページにも掲載したい、という狙いもあり、新しく作ったフォーマットの変更について保育者にも意見を聞きました。
すると最初は大反対(笑)。「保護者の方はこんなに大きい自由記述かけません」「意見を頂きたいポイントをもう少し絞って回答しやすくした方がいい」など。
そうして色々議論を重ね、なんとか私が当初とりたかったフォーマットは維持しながらも、そういった意見を取り入れて調整した新しいアンケートフォーマットでアンケートを実施してみたところ、結果は大成功!
とても素敵なご意見をたくさんいただくことが出来ました。
普段声を上げない保育者の方からも丁寧な声をいただくことができ、保育者が涙を浮かべることもありました。私もそれを見て嬉しかったです。
保護者と園のゆるぎない信頼関係が保護者支援の礎となり良い園をつくる
このような取り組みにより、ポジティブなコミュニケーションの円環が繋がってきました。
この円環がうまく回ることで、保護者と園のゆるぎない信頼関係が生まれ、保育士のやる気が上がり、運営がしやすい環境になります。
それが保護者に伝わり、口コミにより入園希望が増えるというメリットも。
もちろんそれだけではないと思っていますが、当園では良い声をホームページに掲載したことで、実際に「ホームページを見て」という保護者の方が多くなりました。
口コミは、自分と同じ属性の人が言っていること、として非常に大きな力があると思っています。
※キッズキッズ折尾保育園様では「キッズリー」のクラスフォト・連絡帳・おたよりの機能を使用した例をご紹介いただきましたが、現在ルクミーでは「キッズリー」に代わりまして、「ルクミー連絡帳」「ルクミーおたより」のサービスをご提供しております。