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2022/4/13保育経営トップセミナー「これからも選ばれる園になるために」セミナーレポート
2022年05月11日
社会で活躍する女性の増加や、核家族化により保育のニーズが年々高まる一方で、保育者不足が叫ばれています。
今までの社会は「待機児童」が問題となっていましたが、少子化も影響し、これからの保育施設は保育者からも保護者からも「選ばれる時代」が到来することが予測されます。
そうした状況の中、保育に携わる企業がどのように保育現場の環境づくりに向き合っているのか、主に法人本部ご担当者様を対象としたセミナー「選ばれる園になるために」を実施いたしました。
今回は、セミナーの内容について簡単にご紹介いたします。
目次
第1部 保育施設の未来地図〜今なぜ「選ばれる園創り」が重要なのか?(ユニファ株式会社 土岐泰之)
これまでは保育園が足りないと言われてきましたが、近年は園を取り巻く状況が大きく変わっています。
この環境変化の中、「選ばれる園」になるための施策を考える必要が高まってきました。
今後どのような方向で「選ばれる園創り」に取り組んでいけば良いのか、ユニファの事業構想とともにお話します。
保育園を取り巻く環境変化
私立保育園の運営を継続していくためには、園児数の確保や保育者の適切な採用は必須です。
しかし、近年は保育施設を取り巻く環境は、大きく下記の二点の変化で変化しています。
一つ目は、園あまりの時代になってきているということ。
待機児童の増加が大きな社会問題となり、自治体は保育園の新設に力を入れてきました。
その結果、地域ごとに差はありますが、定員割れの園が増え、稼働率は低下傾向にあります。
今後も少子化のため、この傾向は続くと考えられます。
二つ目は採用環境の悪化です。保育士の有効求人倍率は、高止まりの傾向が見られるとはいえ、全職種平均の2倍以上。
離職率の高さ、採用コストアップなどもあり、保育者確保が難しくなっています。
このような環境下で、保育園は保護者からも保育者からも「選ばれる」ことが必要になっています。
「選ばれる園創り」を実現するための施策の方向性
「選ばれる園」になるために、最初にできる“打ち手”は、コントロール可能な「自園で働く保育者」と「自園に通う保護者」に対する施策です。
保育者と保護者を自園のファンにしていくことで、求職中の保育者や保育園を検討中の保護者に、自園の取り組みのこだわりやメリットをクチコミで伝えていくことができます。
そのためには、保育者や園長など自園に関わる人が「時間と心のゆとり」を持って、本来のコア業務に注力できることが重要。保育ICTツールを導入することで、ゆとりを生み出すことができます。
例えば園での様子を撮影した園児の1枚の写真を、各ツールと連携させてすべての帳票に活用すれば、多くの業務を効率化できます。
園でのドキュメンテーション(成長記録)となったり、子どもの様子をリアルに保護者と共有できたりするようになります。
また今後は自園の強みを発見、発信し、集客や採用強化につなげる具体的な支援策なども構想中です。
ぜひ皆さんと「選ばれる園創り」について考えていきたいと思っています。
第2部 クオリティと経営の両立とは〜選ばれ、愛され、成長し続ける保育園へ〜(株式会社ソラスト 家城悦子 氏)
ソラストグループは「人とテクノロジーの融合により、『安心して暮らせる地域社会』を支え続けます。」を企業理念に、医療・介護・保育・教育などの事業を展開しています。
保育事業は、東京都を中心に67箇所の保育施設を運営しています。
「すべてはそこに暮らす子どもたちのために」を保育理念とし、保育のクオリティと経営力の両立を目指した取組を行っています。
保育のクオリティと経営力の両立を目指すために
まず保育の質を上げるには、園の主体性を尊重し、チャレンジを支援することが大切だと考えています。
例えばコロナ禍の中で運動会ができないかわりに他の行事を考えたり、オンラインで離乳食相談を受けたり、Zoomでの保護者会や保育参観を行ったり、そういった活動を園が主体的に企画・実施し、本社の事業部はITの活用などの方法で支援することなどが挙げられます。
また、経営力を上げるために重視していることが人財育成とインフラ整備です。
人財育成は明日からの保育に活かせるような研修の充実、インフラ整備は定量評価を取り入れる独自の評価制度の導入、ICTによる業務効率化などを行っています。
これらの取り組みのおかげで、保育者や保護者の満足度が向上し、99%の稼働率を達成しています。
園が主体的に事業成長に取り組むことが重要
保育の質を上げ、事業を成長させて経営力を上げることの両立は、会社側から働きかけるだけではなく、園が主体的に取り組まないと実現できません。
そのためには園長に事業成長サイクルを理解してもらい、園全体に浸透させていくことが必要となります。
事業成長のサイクルはスタート地点は従業員の満足(ES)であり、それがあって初めて顧客満足(CS)につながり、利益が上がり、結果として従業員の処遇改善や施設への投資を行えること。
そしてこの事業サイクルを大きくする(事業を成長させる)ことが、園や個人の成長にもつながることだと考えています。
これらをリーダートレーニングなどで繰り返し伝えて理解、浸透を促しています。
また、保育者が子どもから離れて業務を行う「ノンコンタクトタイム」をシフト作成時から計画して確保できる取り組みを行っています。
ノンコンタクトタイムを確保するために、園長が経営者の視点で職員配置を工夫したり、業務を見直すことになります。
このような新たな取組や仕組みづくりを止めた瞬間に、成長も止まると感じています。
みんなが笑顔で過ごすために、これからも試行錯誤をしながらチャレンジを続け、選ばれ、愛され、成長し続ける園を目指していきます。
第3部 人が定着する職場づくりの実例と考え方(株式会社船井総合研究所 堀内顕秀 氏)
保育士の有効求人倍率は高水準が続いています。
そのため保育者から「選ばれる園」になることは経営の安定性から見ても非常に重要なポイントです。採用した保育者が定着し、成長していくための環境づくりについてご紹介します。
現在の保育業界の採用環境
保育士の有効求人倍率は他職種に比べて高倍率が続いていますが、ピーク時よりは落ち着いてきています。
これは保育士の採用マーケットにおいて、コロナ禍の影響、新設園の減少、保育士が「定着する園」と「定着しない園」の2極化が進んでいること、等の変化の影響と考えられます。
また、保育士の新卒採用では保育専門学校の定員、入学者数、応募者数は減少傾向にあり、資格取得後、保育業界に就職しない学生も多くなっています。
これらの採用の状況を見ても、採用した保育者をいかに育成し定着させていくか、という視点は今後ますます重要になっていくと考えられます。
退職理由から考える離職対策
「定着する職場づくり」を行う上で、大前提となるのは「正しい退職理由を把握する」ことです。保育士の主な退職理由とそれぞれの対策を考えてみましょう。
退職理由1位「人間関係」(断トツの1位!)
より深く分析することが必要です。「本部」「上司」「同僚」「保護者」など、誰を相手にした人間関係なのかを把握して、それぞれに対して対策を行います。
退職理由2位「給料が安い」
適切な補助金を受給できているか、確認します。特に各種加算は、地域により独自のルールがあることが多いため、取り漏れていることが多いです。また、求人情報など、様々な媒体で他園の給与を確認し、本当に給与のせいで退職するのか、見極められるようにしましょう。
退職理由3〜4位「仕事量が多い」「労働時間が長い」
働き方改革を実施します。業務状況を把握・分析し、プロジェクトチームを発足して、方向性を決定します。導入をした後は、柔軟に体制変更をするなど、継続するためのフォローをしっかり行いましょう。
退職理由5〜7位「妊娠・出産」「健康上の理由」「結婚」
家庭環境や健康状態の変化があっても働き続けられる、多様な働き方を支援する仕組みをつくります。
法人規模ごとの対策優先順位
保育園の法人の規模により、保育士定着施策の優先順位は変わってきます。
・1園〜3園:トップが経営理念、目指すべき方向を明確にします。
・3園〜10園:トップの理念、方向性を理解する2番手を育成し、ます。
・10園〜:定着理由が、理念への共感から、人間関係へと変化する規模です。園長、SVを育成し、人間関係の構築に比重を移していきます。
保育者の定着は、劇的に改善するものではありませんが、何もしなければ改善しません。
「選ばれる園」になるために、何かひとつでも着実に歩みを進めていくことが大切です。
いかがでしたでしょうか。
第4部:対談セッション 土岐 × 家城 × 堀内 「選ばれる園創りに重要なこととは?」
では3名によるディスカッションも行われました。
詳しい内容はぜひ動画でご覧ください。
※文中、一部明確に「保育士資格」限定の意の場合において登壇者の意図を優先し「保育士」の記載をしております。