ルクミー みらい保育スクール 保育ドキュメンテーション事例
子ども向けドキュメンテーションが、語り合いの場と他者への興味を生み出した
2022年06月22日
ルクミーが主催する保育施設向け実践型オンライン研修「ルクミー みらい保育スクール」では、園・施設の課題解決や保育の質向上を目指す先生方を、さまざまな研修プログラムでサポートしています。
その中のひとつである、往還型「ドキュメンテーション活用」コース(*)に参加されたのが、かほる保育園の佐藤先生です。
*「ルクミー みらい保育スクール 『ドキュメンテーション活用』コース」とは、グループワークで写真を使った振り返りを行う全4回の研修プログラムです。
かほる保育園さまでは、以前から保護者向けの簡単なドキュメンテーションを作っていたそうです。
そこで今回は、子どもたち向けのドキュメンテーション作りに取り組まれました。
そのなかで、子どもたちと保育者に変化が表れたエピソードや、佐藤先生がドキュメンテーションに対して感じた効果、今後の目標について話していただきました。
ドキュメンテーションが他の子の遊びを知るきっかけに
研修で掲げたチャレンジテーマは「大人も子どもも見て楽しめるドキュメンテーションを」です。
もともと個別に遊ぶことの多い子どもたちが、ドキュメンテーションによって他の子の遊びに興味をもってくれたらと思い、このテーマに取り組むことにしました。
当園は開園時から保護者向けのドキュメンテーションを作成していましたが、それはあくまで活動内容を簡単に伝えるもの。
子ども向けにわかりやすいドキュメンテーションを作る頻度は、あまり多くありません。
そのため今回は、面白そうな遊びを子どもたち向けに大きく掲示し、遊びの共有ができればと思ったんです。
研修の期間中に生まれた「恐竜のたまご探し」という遊びにおいては、ドキュメンテーションだけでなく、子どもが見つけたものを実際に展示するという試みに挑戦。
展示したのは、恐竜の化石に似た木の破片です。
展示されたものを見て、さまざまな子が興味をもつ様子が見られました。
園内で起こっている他の子の遊びに興味をもつきっかけが作れたと思います。
加えて、ドキュメンテーションを作ることで私自身も子どもの興味に気づけ、保育の振り返りもできていました。
実物とドキュメンテーションの掲示で興味の輪が広がった
ここからは、ドキュメンテーションを活用した「恐竜のたまご探し」という遊びの事例をご紹介します。
集団で遊ぶことが得意ではなくお散歩にもあまり参加しない4歳のE君が、ある日「公園で恐竜のたまごを見つけた」と教えてくれたことから恐竜のたまご探しが始まりました。
最初は私とE君の2人で園庭へ出て、たまごを探すことに。
すると4歳児のA君とR君もやってきて、一緒に探し始めたんです。
その日は結局見つからなかったので、翌日みんなで公園へ探しにいくことにしました。
翌朝、普段はお散歩に参加しないE君が公園へ行くのを心待ちにしていた姿がとても印象に残っています。
スコップや図鑑をリュックに詰めて、数人の子どもたちで公園へ出かけました。
公園でもなかなかたまごが見つからなかったのですが、E君がパラサウロロフスという恐竜の頭に似た化石のような木の破片を発見したんです。
「たまごじゃないけど化石が見つかったね」とみんなで大盛り上がり。
E君はその破片を水道で丁寧に洗い、大切に抱きしめて持ち帰りました。
そして園のみんなが見られる場所に、持ち帰った破片をドキュメンテーションと一緒に展示することに。
すると、破片が気になっておそるおそる触る子やドキュメンテーションをじっくり読む子、「僕もこのとき一緒に行ったんだよ」と誇らしげに話す子など、さまざまな姿が見られました。
ドキュメンテーションと破片を展示している空間が、自然と「語り合いの場」になっていたんです。
普段、集まりの時間を設けていてもなかなか集まらないのですが、子どもたち向けのドキュメンテーションと実物の展示があったからこそ、このような場が生まれたのだと思います。
その後、メンバーを変えて恐竜のたまご探し2回目が実施されたり、E君を慕う2歳児クラスの子達が恐竜の化石を探そうと意気込んでいたりと、周りの子たちや先生たちにまで興味の輪が広がっていきました。
そして、2回目のたまご探しのドキュメンテーションも同じスペースに掲示。
2歳児の子が恐竜のたまごに似た石を見つけ、自分の足元に置いてたまごを温めるような動作をする写真も載っていて、あたたかい気持ちになりました。
この遊びをドキュメンテーションにしたことでE君に興味をもつ子が出てきて、E君の自信にもつながったのではないかと感じています。
子どもたちのいる場で作ればドキュメンテーションは変わる
今後は、ドキュメンテーション作成を子どもと一緒にやっていきたいと考えています。
子どもの声を聞きながら作ることで、保育者と異なる視点での興味や面白さ、心が動いた瞬間に気づけるのではないかと思うんです。
そして、子どもたち向けのドキュメンテーションを掲示し続けることで、子どもたちがつながれる機会を保育者が保障していければと思います。
「子どもと一緒にドキュメンテーションを作る」を実現させる方法は模索中ですが、現時点では、子どもたちのいる場でドキュメンテーションを作ることがその答えだと考えて実施しています。
他にどのような方法があるのか、これからも考えていきたいです。
子どもたちがいる場でドキュメンテーションを作っていると、子どもたちが興味を持って寄ってきてくれます。
そこで交わされる会話を聞くことで、子どもたちの視点が見えてくる点がこの方法の良さだと感じています。
私自身も、子どもたちの顔を見ながら作ると楽しいんです。
もし時間外でドキュメンテーションを作ろうとして苦しくなっているようなら、子どもたちのいる場で作ることを試してみてください。
子どもたちの反応を見ながら作れば、ドキュメンテーションを作る楽しさや子どもたちの見え方も変わり、ドキュメンテーションの書き方も変わるかもしれません。
現在、恐竜のたまご探しブームは落ち着いています。
しかし私としては、また続きを行って新たな化石を見つける機会を作りたいと考えているため、恐竜コーナーを今後どうすべきか悩んでいるところです。これは私自身がこの取り組みを楽しんでいるが故の悩みかもしれませんね(笑)
大豆生田先生からのコメント
「公園に行って恐竜のたまごを見つけたい」という1人の子どもの声を拾い、それを共有していく先生の姿が非常にいいと思いました。
子どもの声を聞いて実際に見にいくというところがいいですよね。
そして写真記録があることで、他の子の遊びに興味が湧き、子ども同士の対話や共有が生まれ、そこから「育ち合い」や共通のテーマが生まれています。
これは、園という集団保育の場において非常に大事なことです。
1人の子どもの関心ごとが、壁面に写真などで掲示されることによってさらに深まっていく点も重要なポイントです。
「子どもと一緒に作っていきたい」という思いが実現すると、さらにいい取り組みになっていくでしょう。
先生が必ずしも「全員」にこだわっていない点もいいですね。
関わっていなくても興味をもつ子もいますし、まったく別のことがブームになっている子どもたちもいます。
多様な参加のありようを大切にする先生の保育への思いや子どもの思いがよく見えてくる事例でした。
遊びは一度消えたように見えても、時間をおいて再びブームになることもあります。
複数の遊びやブームは並行して進むものなんです。
恐竜のたまご探しの環境は少し残しつつ、他の遊びも大切にして、いつでも続きができるように準備をしておくといいかもしれませんね。
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※本インタビューは『スマート保育園・幼稚園・こども園通信』2022年度6月号からの抜粋です。『スマート保育園・幼稚園・こども園通信』はルクミーをご利用中の園・施設様向けに毎月発刊している刊行物です。バックナンバーは、ルクミーをご契約頂いた園・施設さま・ルクミー みらい保育スクールへご参加頂けた方のみが閲覧出来る「ルクミールーム」内にてご覧いただけます。
※Web版とPDF版で編集の都合上、一部内容が異なる場合があります。
※記載内容はインタビュー当時の内容です。